0910
Lucky Number Slevin (Widescreen)
2006/9/12発売 米国盤DVD
2006年ポール・マクギガン監督作。ジョシュ・ハートネット主演。
仕事をクビになったうえにアパートがシロアリでやられてしまったスレヴィン(ジョシュ・ハートネット)は、恋人の部屋に行ったものの、彼女は浮気の真っ最中。仕方なくスレヴィンはニューヨークに居る友人ニックを訪ねて行くことにするが、ニックが留守の間にやってきたマフィアのメンバーにニックと間違えられてしまう。おまけにマフィアのボス(モーガン・フリーマン)からは、借金まみれのニックの代わりにライバル組織のトップ・ラビ(ベン・キングズレー)の息子殺しを無理やり押し付けられる一方、同じくニックが借金をしているラビからは48時間以内に多額の返済を迫られる。ニックの部屋の真向かいに住むリンジー(ルーシー・リュー)は、スレヴィンに興味を示してあれこれ探り出そうとするが、対立するマフィア組織の陰にはすご腕の殺し屋グットキャット(ブルース・ウィリス)がいた・・・。
「ホワイト・ライズ」のポール・マクギガン監督が豪華キャストで贈るスタイリッシュなクライム・サスペンス。ストーリーテリングの手法がかなり凝っているのと、気の利いたセリフが次々とテンポ良く飛び出すので、展開について行くのに必死。スタイリッシュな映像や斬新な画面切り替えにも目が釘付けになっているうちにあっという間にエンディングを迎えた感じ。肝心のミステリーの謎解きはちょっと分かりにくかったうえにあまりリアリティが無いのだが、今どきのサスペンスとしてひととおりの要素は揃っており、適度に楽しめる一本だ。
厄介事に巻き込まれるスレヴィン役のジョシュ・ハートネットは困った表情が絶妙でしっかりはまり役、ブルース・ウィリスの殺し屋役はベテラン級で有無を言わせぬ迫力。一方、モーガン・フリーマンがマフィアのボス、ベン・キングズレーがマフィアのラビ(ユダヤ教の聖職者)、ルーシー・リューがかわいらしい隣人・・・と意外なキャスティングも目を引く。
DVDは映像、音声ともに最高のクオリティ。音声は英語とフランス語、字幕は英語、スペイン語を収録。特典映像にはメイキング、未使用バージョン・エンディングの一部などのカットシーン、ジョシュ・ハートネットとルーシー・リューのコメンタリー、監督コメンタリー、予告編を収録。特典映像にも英語字幕がついているのが嬉しい。
0906
Pavilion Cinemaにて。
2006年バレリー・ファリス、ジョナサン・デイトン監督作。グレッグ・キニア主演。
美少女コンテスト「リトル・ミス・サンシャイン」の予選を奇跡的に通過した7才のオリーブ(アビゲイル・ブレスリン)を連れ、おんぼろバスでニューメキシコを旅立ったフーバー一家。目指すはカリフォルニアの決勝会場。父親のリチャード(グレッグ・キニア)は自分で考案した人生の成功哲学プログラムの出版と講演活動で一儲けを狙う楽観主義者、息子のドウェイン(ポール・ダノ)はニューチェに傾倒し、航空学校を目指しての願掛けで全く口をきかず、老人ホームを追い出された祖父(アラン・アーキン)はヘロイン中毒、ゲイの叔父フランク(スティーヴ・カレル)は失恋して自殺未遂を図ったばかり・・・。そんな一癖も二癖もある家族たちに振り回される母親のシェリル(トニー・コレット)。てんでばらばら一家のメンバーそれぞれが人生最大のピンチに遭遇してしまう、泣き笑いのロードムービー。
今年のサンダンス映画祭で大好評だったというハートウォーミングな作品。監督はミュージック・ビデオ・プロデューサーとして活躍してきたバレリー・ファリスとジョナサン・デイトン夫妻で、本作で長編映画デビュー。
インディ映画でほのぼのコメディドラマというと、90分ちょっとの間に最高に良く出来ている部分もあればどうしても中だるみしてしまうところもあって、最初から最後まですべてが面白い映画はなかなか無いものだが、本作は笑いと悲しみがほどよいタイミングで次々と起きて来て全く退屈しなかった。どのシーンを取っても隙のない組み立てとカメラワークがきっちり引き締めてくれていて、一つ一つのエピソードが全部、効果的に映画に命を与えている。それぞれの出来事がクライマックスに向かってちゃんと一つになって、最後にオチがある。とても巧い映画作りにただただ感心。
「がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン」のグレッグ・キニアも、「イン・ハー・シューズ」のトニー・コレットも、「40歳の童貞男」のスティーヴ・カレルも、ベテラン俳優アラン・アーキンも、「ガール・ネクスト・ドア」でちょい役で出ていたポール・ダノも、子役ながらすごい演技の才能を見せるアビゲイル・ブレスリンも、みな良かった。一見、典型的なアメリカン・ファミリーと思わせるようなキャラクターばかりなのだが、ステレオタイプで終わらずに、もっと「本当に居そうな」リアルな人間として感じられるのだ。
ただこの映画の良さはいくら書き連ねても言葉では伝わらないだろう。一瞬一瞬を感じ取って始めていいと思えるタイプのものだから。
こういう映画を求めている人は多いと思う。今年一番お勧めのドラマ作品。
0903
United 93 (Widescreen)
2006/9/5発売 米国盤DVD
2006年ポール・グリーングラス監督作。
2001年9月11日朝。ボストン航空管制センターの係員がアメリカン航空11便の異変を察知した。応答が途絶え、航路を変えた11便にハイジャックの疑いが浮上。直ちにニューヨークの管制センターと中央管制センターに伝えられる。ニューヨークに向かった11便は、あわやデルタ航空機とのニアミス接近の直後、マンハッタン上空でレーダーモニターから姿を消してしまう。同じ頃、ニューアーク空港では、ユナイテッド93便がサンフランシスコに向けて飛び立とうとしていた・・・。
9.11テロでハイジャックされた旅客機4機のうち、2機はニューヨークのワールド・トレード・センターに、1機はワシントンの国防総省に激突炎上した。ワシントンに向かった4機目のユナイテッド93便はターゲットに達せずペンシルヴェニア州郊外に墜落。本作は、9月11日の朝、アメリカの空に異変が起きた時点から4機目墜落の瞬間までの一刻一刻をドキュメンタリータッチで再現しようと試みた作品。各地の航空管制センター、当日は訓練を行っていたNORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)内部の混乱の様子から、ユナイテッド93便がテロリストにハイジャックされ、乗客が何とか墜落を食い止めようとする姿をリアルタイムですさまじい臨場感と共に描いている。間違いなく今年必見の一本。
映画技法を交えて完全にノンフィクション・ドラマ化していたオリバー・ストーン監督の「ワールド・トレード・センター」とは対象的に、ユナイテッド93便に焦点を当ててリアリズムに徹したのが本作品。監督は被害者の家族や航空関係者に綿密な取材を行い、管制センターのスタッフの何人かには実際に出演してもらって、できる限り忠実に再現しようと試みている。断片的な情報に混乱する管制センター内の人々の様子は、映画とは思えないほどリアル。
ペンシルヴェニア州に墜落したユナイテッド93便では、乗客がハイジャック犯に殺害されたことや、数人の乗客が団結して犯人と闘い、最後まで墜落を食い止めようとしていたことは何度も報道で伝えられていた事だ。誰もが結末はどうなるか知っている事件を映画化することの意義はどこにあるのか、実際に映画を観てみて痛いほどに感じた気がする。9.11テロはあのむごすぎる行為と被害の大きさに対して、未だに明らかにされていない事実が多すぎるのだ。今も「本当は何が起きたのか」を詳細に自分の目で見て知れるものならば知ってみたい、と思っている人は多いだろう。
観終わって少しの間は身動きできないほどの悲しみで一杯になってしまったが、本作は、自分の中では事件に対する一つの区切りをきちんとつけてくれた気がする。(その点で、オリバー・ストーン監督の「ワールド・トレード・センター」は、あまり心の整理にはならなかった)
作為的な部分をできる限り排除し、事件の一部を客観的に映像化して記録として残したポール・グリーングラス監督は偉大だと思うし、さすが「ブラディ・サンデー」を撮った監督、一番難しと思われる被害者の描写も、一人一人の尊厳を損なわずに、ヒロイックにせずに的確に描いていたと思う。
DVDは英語、スペイン語、フランス語それぞれ5.1ch音声と字幕を収録。特典の一つで1時間ほどのドキュメンタリー”United 93: The Families and the Film”は、乗客を演じた俳優が、それぞれ残された家族に会いに行く様子、被害者の家族の本作に対する意見や観た感想までインタビューしたもので、作品の趣旨や背景をより明確にしてくれる内容だ。英語字幕付。他には監督のコメンタリー、乗客と乗務員のバイオグラフィー、9.11で命を落とした消防士の兄弟を描いたショートフィルム”Twin Towers”の予告編収録。
0824
原題:World Trade Center
AMC Empire 25 にて。2006年オリバー・ストーン監督作。 ニコラス・ケイジ主演。
2001年9月11日、ニューヨーク。ポート・オーソリティ警官のジョン・マクラクリン(ニコラス・ケイジ)はいつもと変わらぬ朝を迎えていた。しかし部下たちの点呼を取りそれぞれを任務に向かわせた後、誰も予想しなかった大惨事が起きる。ワールド・トレード・センターに航空機が衝突した事を知り、ビル内部の構造に詳しいジョンは、ウィル・ヒメノ(マイケル・ペーニャ)ら数人の部下を集め急きょ救出作業のため現場へと向かう。しかし、彼らが二つのタワーを繋ぐ通路を通過していた時、ビルは轟音を立てて崩壊を始めた・・・。
9.11テロで実際にワールド・トレード・センターに向かった二人の警官と、彼らの救出を待ち望む家族の姿をリアルに詳細に描く。
この春公開されたポール・グリーングラス監督の「ユナイテッド 93」に続き、9.11テロを題材にした映画。ペンシルバニアで墜落したユナイテッド93便をドキュメンタリー・タッチで描いた「ユナイテッド 93」に対し、こちらはオリバー・ストーン監督がドラマ仕立てに構成したもの。二人の警官の妻役はマリア・ベロとマギー・ギレンホール。出演者はみな質の高い演技を見せている。
あのワールド・トレード・センターでの大惨事を描いた映画が遂に作られた。本作は二人の警官とその家族の一日に焦点を絞りながら、あの日のニューヨークの街の様子を怖いほど現実そっくりに再現している。一般市民はもちろん、現場にいた警官や消防士たちは何が起きているのか全く分からないままあの惨事に巻き込まれてしまったのだ。家族は情報の少なさに苛立ったり、誤報に翻弄されたりしながらも望みを捨てずに待ち続ける・・・。個人とその家族の視点から9.11テロを撮ったのがこの映画。
涙なくしては観る事の出来ない一本だが、ドラマチックな展開も嫌味なほどではないし、難しいテーマを程よくエンターテイメントに仕上げている。ただ事件の前後の生活ももっと描いていれば、ニコラス・ケイジ演じるジョンへの感情移入がもっと出来たと思うし、ドラマに厚みが増したかも。「ワールド・トレード・センター」というタイトルもあまりにもストレートすぎるのでは・・・!?
あの日、ニューヨークに居た誰もがそれぞれ9.11の個人的な経験談を持っている。時が経つにつれ、段々と皆それを語らなくなって行くが、あの時の絶望感は決して忘れられない。それを思い出してしまうと、もう冷静に映画の感想を書けるはずもなく・・・(今これを書いている間にも涙が出てきた)。
0805
M・ナイト・シャマラン監督の最新作「レディ・イン・ザ・ウォーター」の公開と同時に一冊の本が出版された。本の名前は、”The Man Who Heard Voices: Or, How M. Night Shyamalan Risked His Career on a Fairy Tale”。
「レディ・イン・ザ・ウォーター」のシナリオが完成してから試写会が行われるまでの製作舞台裏を綴ったノンフィクションだ。著者はスポーツ・ライターのマイケル・バンバーガーで、シャマラン監督と数ヶ月間行動を共にしてこの本を書き上げている。
本書の抜粋が映画の公開直前に雑誌「Entertainment Weekly」に掲載されていたのだが、製作前のある重大なエピソードの詳細をありありと描写していて、ぐいぐい引き込まれるようにして読んだ。当然、一冊全部読みたくなってしまい、発売前から予約してまで購入してしまった。
製作前のある重大なエピソードとは、「レディ・イン・ザ・ウォーター」のシナリオが完成した段階でディズニーの重役が内容に難色を示したことで、シャマラン監督は彼らの反応に失望し、ディズニーを離れてワーナーで製作することになるまでの経緯だ。
「レディ・イン・ザ・ウォーター」は、シナリオ完成後、まずはディズニーの重役3人がそれを読んで監督にフィードバックするという段取りになっていた。全ページにシリアルナンバーが付けられ、厳重に管理されたコピーを持って監督のアシスタントがLAに飛び、ディズニーのトップ3人にコピーを手渡しする。その提出時間や、それぞれがシナリオをキープしておける日数までが綿密に計画された上でのことだ。
その後、今度はディズニーの3人が監督の住むフィラデルフィアに揃ってやってきて、映画製作について具体的に話す段階になるのだが、ディズニー陣のテンションは最初から低く、エレガントなレストランでセッティングされた会合での会話は終始ぎこちない。ディズニーの社長がシナリオの難点をあれこれと並べつらね、とうとう監督は食事には全く手をつけないまま、ディズニーでの製作を断念することになる。
レストランを出た後、ディズニーの会長がシャマラン監督に「とにかく撮ってくれ。そして自分たちが間違っていたことを証明してくれ」と最後のオファーをするのだが、監督は「それはできない」と言って結局、絶望のどん底でディズニーとの縁を経ち切ってしまう・・・。
そんな緊張に満ちた一大事で始まる本書は、その後、ワーナーへの移行、キャスティング、撮影、編集、そして試写会までの数ヶ月に起きるさまざまな出来事を記録しながら、シャマラン監督のバックグラウンドや私生活まで、興味深い内容を幅広くカバーしている。本の前半、撮影が始まるまでの段階の部分は、ハリウッド・ビジネスの華やかな世界で繰り広げられるやりとりが面白くて一気に読んだ。撮影以降のプロダクション日記も、キャストのゴシップも含めてそこそこ面白いが、製作現場でのディテールを延々と読み続けるには少々忍耐が必要だった。
本書に興味を持ったもう一つの理由は、シャマラン監督という人物が謎に満ちていたから。完全オリジナルの脚本を自ら書くと同時に監督を務め、ビッグマネーを生みだすことのできる数少ないハリウッドの映画人。「シックス・センス」でメジャー監督として彗星のごとく現れた後、「アンブレイカブル」(国内外合わせて興行成績2億4900万ドル)、「サイン」(4億500万ドル)、「ヴィレッジ」(2億5600万ドル)と、連続して巨額の製作費を思うままに動かして撮っているように見える。いくら「シックス・センス」が興行成績とDVDを合わせて10億ドル以上の売り上げを記録した巨大ヒット作だったとは言っても、その後あれほどマニアックな3作を、しかも大型の予算で自由に撮らせてもらえる(ように見える)のは不思議なのだ。
M・ナイト・シャマランという名前も疑問だった。何故ファースト・ネームはイニシャルなのか? その「M」が「Manoj」のイニシャルだということもこの本で知った。インド系の名前「Manoj」は何と発音するのか分からないが、自分の名前が気に入ってないのだろうか、イニシャルにしている理由は不明だ。ミドルネームの「ナイト」(Night) は、監督自身が付けたものだそうだ。日本人もそうだがインド人もミドルネームを付けないのが一般的なのだろう。
シャマラン監督の家族構成は、心理学の博士課程に在籍している夫人と二人の娘。娘たちの為に考えたベッドタイム・ストーリーが本作の原形だということだ。フィラデルフィアの郊外の広大なファーム(農場)で暮らし、お抱えのシェフ、運転手、子供たちの家庭教師などなど、使用人を大勢抱えた貴族のような暮らしぶりは、映画監督という職業としては、ハリウッドでもそう多くはいないだろう。もちろん、自宅とは別にオフィスを構えていて、そこでもアシスタントを雇っている。
製作に際しての監督の決定権は絶大、というか、始めからすべて自分の頭で考えて出来上がっているようなものだろうというのは映画を観れば想像がつくが、徹底して自分のスタンスを守るところもすごい。例えば、ロケはフィラデルフィアの自分の自宅から45分以内のロケーションでなければならない。夜は自宅に帰って家族との時間を過ごしたり、自分のベッドで寝たいからだ。
が、その辺りでは関係者も負けてはいない。「サイン」の撮影時にメル・ギブソンはカリフォルニアから自家用ジェットでフィラデルフィアのロケ地に通っていたりとか、「レディ・イン・ザ・ウォーター」の撮影監督、クリス・ドイル(ウォン・ カーウァイ監督「花様年華」のカメラマン)は、フィラデルフィアではとても生活できないといってニューヨークの高級ホテルに一人泊まり、車で数時間かけて往復していたという、映画業界人のそれぞれの頑固な姿勢も驚き。
それも華やかなハリウッド業界の一面だ。
監督のアシスタントが最初のシナリオをディズニーの社長に届けにいった際、約束の時間に社長が留守にしていたために待たされることになり、その後、社長は遅れたお詫びとして、「ディスニーのジェット機を使って帰っていいわよ」と軽くジェット機一台提供してしまう(アシスタントは断っている)。ワーナーとの交渉の際には、今度はワーナーが専用ジェットでシャマラン監督と側近数人をお迎えにあがり(パイロット二人&スチュワーデス一人同乗)、機内には食べきれないほどの食べ物と、ワーナー映画のシアターが付いている豪華さ。さらにLAでのシャマラン監督ホテル代が一泊3500ドルだとか、ハリウッド・スタジオのぴかぴかのオフィスとか、文章から想像するだけでもきらびやかな光景が目に浮かぶ。
何故ディズニーが本作のシナリオに難色を示したか?それはネタバレになるのでここでは書かないでおくが、本の最後でディズニーの社長とシャマラン監督は和解している。
結局、「レディ・イン・ザ・ウォーター」はアメリカ国内での評価はパッとしなかったが、監督は既に次作に取り掛かっているという。次も楽しみだ。